Antimicrobial Resistance Benchmark: スーパー耐性菌:薬剤耐性菌への製薬各社の取り組みを比較した 初の独立調査
Antimicrobial Resistance Benchmark(薬剤耐性ベンチマーク)報告書によれば、率先した取り組みを行っているのは、研究開発型の大型製薬会社ではGSKやジョンソン・エンド・ジョンソン、ジェネリック医薬品メーカーではマイラン、バイオテクノロジー企業ではエンタシスとなっています。報告書では、全ての企業に改善の余地が指摘されたのと同時に、優れた事例も紹介されました。
Access to Medicine Foundation(医薬品アクセス財団)でエグゼクティブ・ディレクターを務めるジェイアスリー・K・アイヤーは次のように述べています。「抗生物質は適切量、適切な細菌に使用すべきです。でなければ細菌は抗生物質に適応して耐性を高め、その細菌を死滅させることが難しくなります。かつて致死的だった感染症が再び致死性を持つ可能性が高まっています。スーパー耐性菌の脅威に立ち向かう取組みにおいて製薬会社が果たす役割は重要になっています。」
抗生物質の有効性は急速に低下しており、主に人、動物、農作物への使用がこれを加速しています。細菌が耐性を獲得する危険性を最小限に抑えるためには、抗菌性物質の使用は慎重に行わなければなりません。現在、抗菌薬耐性(AMR)の進行ペースを鈍化させる取り組みを早急に強化する必要性が、政治の最も高いレベルにおいて広く認識され、国連、G7、G20によるAMRへの取り組みが開始されています。薬剤耐性を抑制するためには、各国政府、政策当局、公共保健機関、医師、農家、製薬会社、患者間の連携した取り組みが必要です。薬剤耐性ベンチマークに参加した企業の大半は、2016年1月のダボス会議での薬剤耐性との闘いに関する業界全体の共同宣言に合意しています。
薬剤耐性ベンチマークは、医薬品業界の代表的企業が薬剤耐性菌の脅威にどのように対応しているか比較したもので、シオノギ製薬を含むグローバル製薬企業、バイオテクノロジー企業、ジェネリック医薬品企業など、抗菌性物質の開発と製造を積極的に行っている30社を対象としています。主な調査分野は、新しい抗菌性物質の研究・開発、抗生物質の製造に関する責任方針、抗菌性物質のアクセスと適正使用に関するアプローチです。複数の情報源から情報を収集し比較分析しました。
医薬品アクセス財団のエグゼクティブ・ディレクター、ジェイアスリー・K・アイヤーは次のように述べています。「製薬会社はAMR問題に取り組んでいますが、大半の企業にとってこれはスタートにすぎません。各社のパイプラインでは重要な新薬が開発段階にあるものの、有効性を失った全ての薬剤の代替品が開発されているわけではないことは広く認識されています。薬剤耐性ベンチマークは、一部の企業が導入している、個別の製品に対するアクセスとスチュワードシップに関する優れた事例も紹介しています。」
トップ企業
薬剤耐性ベンチマークに含まれるグローバル製薬企業8社の中では、GSKとジョンソン・エンド・ジョンソンがトップにランクインしました。GSKは専門家がAMRの最優先課題であるとする病原体向けも含め、パイプライン上に最も多くの抗菌薬を持っています。ジョンソン・エンド・ジョンソンは結核に特化しており、多剤耐性結核を適応症とする画期的新薬へのアクセスを、国家結核プログラムを通じて厳重に管理しています。これらの企業に続き、ノバルティス、ファイザー、サノフィが同点でランクされました。ファイザーは特に優れたスチュワードシップ対策を導入しており、サノフィは研究開発で最も高く評価されました。ノバルティスはほとんどの分野で一貫して安定した評価を受けました。
バイオテクノロジー企業は、抗菌薬開発で極めて重要な役割を担っています。ベンチマークで評価された12社の中でトップはエンタシスで、特に候補薬剤へのアクセスと適正使用に関する事前計画が高く評価されました。続いて、ポリフォー、サミット、テトラフェーズの3社が同点で2位にランクされました。
ジェネリック医薬品企業は、現在販売されている抗生物質の大半を占めているため、薬剤耐性の拡大を抑制する上で重要な役割を担っています。他の企業群と比べ、ジェネリック医薬品企業は透明性が相対的に低くなっています。このグループのトップ企業の特徴として、低水準の価格設定または製品の合理的使用のいずれかを重視するというはっきりとした傾向が見られます。評価対象となった10社のうち、トップのマイランは、有効成分や他の製剤のサプライヤーに適用している公平な価格アプローチや環境リスク管理戦略など、複数の分野で高い成果を上げました。マイランに続き、シプラが2位、フレゼニウス・カービが3位でした。
ジェイアスリー・K・アイヤーは次のように述べています。「ベンチマークの結果から浮かび上がってきた強いメッセージの一つは、スーパー耐性菌に対抗する上で、ジェネリック医薬品企業が大きな力を持っているということです。ジェネリック医薬品企業は数十年間にわたって抗生物質を最も大量に製造してきましたが、AMRに取り組み始めたのはつい最近という企業もあります。各社が自ら本気で取り組むようになれば、そのインパクトは大きいでしょう。」
日本とAMR
シオノギ製薬は日本の製薬会社で唯一、薬剤耐性ベンチマークの対象基準を満たし、他の研究開発型大手製薬会社と並んで評価されました。ベンチマークの結果、シオノギ製薬を含む2社だけが、抗生物質の販売数量と賞与を完全に切り離し、営業担当者による抗生物質の過剰な売り込みを奨励するインセンティブを廃止していました。また、抗真菌薬の臨床開発を実施しているのはシオノギ製薬だけでした。真菌感染症による死亡者数は今や、マラリアや結核を上回り、抗真菌薬への耐性は、ほぼ全ての菌類病原体(カンジダを含む)で報告されています。シオノギ製薬は薬剤耐性の増加と拡大を積極的に監視し、日本内外で複数のサーベイランスプログラムを実施しています。ベンチマークでは6回のプログラムが確認され、日本は世界で最も多くのAMRサーベイランスプログラムが進められていることが明らかになりました。
薬剤耐性ベンチマークの主な結果
世界保健機関(WHO)や米国疾病管理センター(CDC)によりAMRの優先度が高いとみなされる重要病原体を標的とする抗生物質で、28件が開発の後期段階にある。しかし、そのうち上市後のアクセスと適正使用に関する計画が整っている候補薬剤は2件のみ。
評価対象企業の約半分が薬剤耐性のパターン追跡に取り組んでおり、147カ国でさまざまな規模のAMRサーベイランスプログラムが進められている。感染症の中で肺炎が最も多く監視されている。ファイザーが最も多くのプログラムを実行している。
環境に放出される工場排水の抗生物質濃度の上限を定めているのは8社。そのうち、GSK、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ファイザー、ロシュの4社は、サプライヤーにも同様の基準の順守を求めている。ただし、実際に放出されている工場排水について公表している企業は無く、今後濃度上限についてより多くの情報が必要である。
営業担当者の賞与と抗生物質の販売数量を切り離しているのは4社。世界全体で両者を完全に切り離しているのはGSKとシオノギ製薬のみ。ファイザーは一部の地域で実験的に導入しており、ノバルティスは販売数量に連動した賞与の割合を徐々に引き下げている。
薬剤耐性ベンチマークの比較方法
薬剤耐性ベンチマークは、AMR抑制のために企業が貢献できるまたは貢献すべきというコンセンサス分野に対する、各社の取り組みを測定したものです。医薬品アクセス財団は、一流の専門家や、薬剤耐性およびグローバルヘルスにおけるさまざまなステークホルダーの協力により、これら分野を定義し、また厳格なプロセスを経て薬剤耐性ベンチマークの手法を策定しました。ベンチマークは、事業内容、製品ポートフォリオ、事業戦略における企業間の違いに対応して柔軟に設定されています。薬剤耐性ベンチマークは英国国際開発省ならびにオランダ健康・福祉・スポーツ省より資金を受けています。
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メディア資料
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Access to Medicine Foundation(医薬品アクセス財団)について
薬剤耐性ベンチマークを発表した医薬品アクセス財団は、オランダを拠点とする独立非営利研究財団です。低・中所得国の医薬品へのアクセス向上を目指し、医薬品を手にすることのできない人々のために行動を起こすよう、世界の製薬業界を促しガイダンスを提供しています。
当財団は過去10年にわたり、医薬品やワクチンへのアクセス向上において製薬業界が果たすべき役割に関するコンセンサスの形成に取り組んできました。2年ごとにAccess to Medicine Index(ATMインデックス)を発表しており、次回は2018年後半に発表される予定です。当財団は2017年に、第1回目となるAccess to Vaccines Index(ワクチンアクセスインデックス)を発表しました。今回の薬剤耐性ベンチマークも初の試みです。
本件に関する報道関係の皆様からのお問い合わせ先
医薬品アクセス財団広報担当
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担当:東川麻衣